人口が減少し始め、超高齢化社会へと突入しつつある日本社会。丸岡町も例外ではありません。しかし、町の未来を背負っていくのは若い世代です。親世代に任せきりにするのではなく、自分たちの手で町を変えていく。丸岡城下では、そうした熱い思いを持つ若い世代が少しずつ育ち始めています。
親たちが作ってくれた丸岡の思い出。
今度は自分たちが町をつくる番。
渡辺さんが地域に関わるようになったのは、Uターンで丸岡に戻ってきた27歳の時でした。看板店を継いで間もないころ、父親に代わり地区の寄り合いに顔を出すようになりましたが、地域ではすでに超高齢化社会が始まっており、どの会合でも最年少だったそうです。
20代で地域と関わることは、ただでさえ億劫なもの。しかも自分の親世代よりも年上との付き合いがほとんどです。ですが、渡辺さんは当たり前のこととしてとらえていました。
「地域を支えるなら、町内会や地区の行事に出ることが大前提だと思っています。自分の子どものころの思い出は、地域の大人が作ってくれたもの。次は親となった自分たち世代がやる番だと思います」
自分の町のことは自分たちでやりたい、当事者意識を持って地域に関わることが大切だと話す渡辺さん。三人のお子さんがいるパパとしても、自分が住む町を盛り上げていくことが親の役目の一つだと考えています。
地域に深く関わるようになったきっかけは、丸岡観光協会に加わったことでした。観光協会は観光業に携る店や事業所の参加が一般的ですが、丸岡町には観光業者が少ないため、各地区から一人ずつ選出されます。観光協会のメンバーになったことで、渡辺さんは丸岡古城まつりの運営に携るようになりました。そこで、少しずつ同世代の仲間を見つけていきます。
若い世代が活躍する場をつくる。
町の未来を変えるために必要なこと。
「若い世代が地域で活躍するフィールドがないので、そういう場を作らなければならないと思いました」
明るく気さくな笑顔で話す瀬野さんは、渡辺さんの町づくり仲間であり先輩でもあります。10年間、丸岡を離れて暮らしていましたが、Uターン後は地元のために何かやりたいという思いになったそうです。青年会議所(JC)に入ったことで町づくりに携るようになり、第46回丸岡古城まつりの時に現在の実行委員会の前身である「古城まつりもりあげ隊」の初代隊長になりました。
「まつりの仕掛け方が変わった時だったので、やる気のある人の受け皿として『もりあげ隊』ができました。子どもからお年寄りまで楽しめる面白いことをしたいという人が、団体を離れて個人として参加したので、人と人のつながりが生まれました」
それまで地域行事で若い世代が集まることが少なかった丸岡町でしたが、これを機に同世代が顔を合わせる回数が増えたといいます。
「まじめな話をするとね、地域のオピニオンリーダーを育てることが大切だと思っていたから、そういう場が必要だったんですよ」
そして隊長となった瀬野さんが出会った若者が、渡辺さんでした。古城まつりの新たな企画として丸岡中学校の中学生による書道パフォーマンスを行うことになり、瀬野さんは渡辺さんに企画担当者をやってみないかと誘いました。
「パフォーマンスを指導してくれる先生を探すところからのスタートだったので、とても大変でした。けれど苦労の数だけ、終わってからの達成感は大きかったです。やるからには最後まできちんとやりたいというのが自分の性分なので、最初から最後までやり通せた満足感もありました」
それは渡辺さんにとって、地域行事を自分の手で一から作り上げる初めての経験となりました。そして、地域のために動いている同世代との出会いは、新しい風を運んでいきました。
丸岡を面白い町にしたい。
国宝化へのプロセスが大切。
渡辺さんと瀬野さんに共通するのは「生まれ育った町だから、丸岡をなんとかしたい。面白くしたい」という思い。丸岡町の未来に対する危機感が、2人を突き動かしています。
「超高齢化社会になり、親世代がどんどん減っていき、跡継ぎがいないため商店も閉まっていく。このままでは丸岡町は福井市のベッドタウンになってしまいます」
渡辺さんは、今が丸岡をどうにかする最後のチャンスかもしれないと話します。では、いま何をするべきなのか。これから町を背負っていく世代が共に考え、実践していくことは、町の未来にとって大きな意味があります。
「住んでいる人が楽しめる町にしなければと思います。丸岡を面白くしたいですね。丸岡城の国宝化が最終目標ではなく、国宝化運動のプロセスのなかで人のつながりがうまれ、新たなコミュニティができ、それを次につなげることが大切です」
丸岡城は町全体が共通して誇りを持てる象徴です。そのため、丸岡城を中心とした人づくり・町づくりの動きは自然な流れ。そこに地元の人も観光客も誰もが楽しめる場を作りたいと話す瀬野さん。古城まつりでも新たな仕掛けを考えているそうです。
「全国ニュースで30~40代が楽しそうに祭りに参加している場面をテレビで見ると、『なんで丸岡はそうじゃないのか。もともと丸岡にいるもんがやっていかなあかん』と思うんです」
そう話してくれたのは、インタビューの終盤に登場してくれた坂北さん。瀬野さん、渡辺さんとは、青年会議所(JC)や古城まつりを通して知り合いました。いろんな会合に参加した後は、たいてい3人で食事に行くのだとか。ざっくばらんに話ができる気の置けない仲間です。
坂北さんは、昨年の古城まつりで新しい取り組みとして企画した「インスタ映え」する丸岡城の写真を見せてくれました。ライトアップされた丸岡城をバックに色鮮やかな番傘が並ぶきれいな写真に、思わず「可愛い!」と声があがります。戦国時代の勇壮な武勇伝とはまた違った丸岡城の魅力を伝えてくれる一枚の写真から、観光資源としての丸岡城の大きな可能性を感じます。
「この写真、いいやろ~」と楽しそうに話す御三方。いやいや、それ以上に丸岡で素敵な仲間を見つけた皆さんがうらやましいですよ。真剣に町の未来を考える若い世代の活躍の場が増えてきた丸岡町。未来は明るい、そう感じる取材となりました。