丸岡城のファンを増やして、自慢できる「ふるさと」を作りたい。

2017年6月に一般社団法人丸岡城天守を国宝にする市民の会が発足し、2018年1月には会員数が1000名に到達しました。発足時より理事長を務めている大濃孝尚さんは、その4か月前まで大企業で働くサラリーマンでした。それが、なぜどのようにして地域づくりに関わるようになったのでしょう。その理由や地域への姿勢をお聞きしました。

一般社団法人丸岡城天守を国宝にする市民の会 理事長 大濃孝尚さん(66歳)


丸岡城の知名度アップを図り、
子や孫も誇りに思う町に。

二階の窓から天守閣が見えるほど近い、丸岡城の目と鼻の先の距離に大濃さんの自宅があります。丸岡城は子どもの頃の遊び場でした。

「丸岡城のファンなんですよ。ここは自分の故郷だから」

市民の会の活動を精力的にこなすモチベーションの源は、故郷を思う気持ちにあります。自分の世代だけでなく、子や孫も故郷を誇りに思えるようにしたい。そのためには、ふるさとの象徴である丸岡城の知名度を上げることが重要だと語ります。

「丸岡城がある地域に住んでいることが誇りになれば、地域社会はきっと変わります。丸岡城を好きになることが、丸岡町だけでなく福井を好きになるきっかけになると思います」

丸岡城のファンとして一人でも多くの人に会員になってもらいたいと熱く語る大濃さんですが、地域に関わり始めたのはほんの数年前。2015年に丸岡地区(現しろのまち地区)の区長会会長に選出されたことで、地域に深く関わるようになりました。ちょうど同じころに丸岡城国宝化に向けた運動が始まり、区長会会長として市民の会の発起人に名を連ねました。

「2018年の福井国体に国体山岳競技役員として参加することもあり、これからは地域貢献に力を注ごうと、ちょうど1年前に会社を退職しました。それで時間に余裕ができたこともあり、理事長に選ばれたのだと思います」

地区会長として地域住民の生の声に触れるうちに地域への関心がどんどん高まり、地域への恩返しを考えサラリーマンを辞めたタイミングで打診されたのが市民の会の理事長でした。


熱意を伝えるのが理事長の役目。
組織づくりの経験を生かしたい。

大濃さんは一年前まで大手製造会社のサラリーマンでした。企業と町づくりはまるで分野が違います。けれど、大企業の組織人として働いてきた経験が市民の会での新たな組織づくりに生かせるのではないかと思い、理事長を引き受けました。

年始年末は各地区で納会や新年会などの集会が開かれます。大濃さんは副理事長らとともに、しろのまち地区の各集会に顔を出し2500枚もの資料を配布しました。一晩で複数区をハシゴする夜もあったそうです。

「熱意を伝えることが理事長の役目であり責任だと思っています。理解してもらえるまで何度でも継続して伝えたい。これは仕事にも通ずることです。人の心や物事を動かすことは簡単なことではなく、行動の積み重ねが必要です」

ただ理想やビジョンを伝えるだけでは人の心は動かせません。行動で見せることで少しずつ伝わり、そこから信頼関係は生まれます。さまざまな意見を持つ人がいて、いろんな組織が複雑に絡み合う地域で物事を進めていくには、どう組織を作り、行動していくかが重要です。長年、大きな組織を動かしてきた経験から、熱意を伝えることや継続の重要性を大濃さんは痛感しています。

いま丸岡城国宝化に向けてワーキンググループがビジョンづくりを行なっていますが、住民とワーキンググループをどう繋げていくかが課題です。組織人の視点と区長会会長の経験を持つ大濃さんは、両者の調整役にぴったりです。

「大濃家は代々、丸岡城の城下町で両替商や商社のような商売を営み、梵鐘を寄付するなど昔から地域に貢献してきた家系だったようです。私は18代目と聞いていますが、地域貢献がアイデンティティの根底にあるのかもしれませんね」

小さな声にも耳を傾けて、
みんなで町を作っていきたい。

「苦情も貴重な意見の一つなんですよ。小さな意見にも耳を傾けて誠実に対応することで信頼関係は築かれます」

ゴミ当番や用水路清掃、騒音やご近所問題など、地域ではさまざまな問題が起こります。区長会会長として、こうした日常の諸問題に対応してきた大濃さん。たとえ小さな声でも、住民の陳情や要望にきちんと応えることが地域づくりに大切だと感じています。

「ベストな答えを出すことが難しいなら、ベターな意見でいいんです。小さな声でも何かしら応えることが大事です」

小さな声にも耳をすませる。地域づくりで見逃されがちですが、この一つ一つの積み重ねがよりより町づくりにつながると大濃さんは確信しています。そのためにも必要なことは、住民間のコミュニケーションです。

「みんなが大きな声で自分から挨拶する町になるといいですね。そこから住民間のコミュニケーションが生まれ、それが丸岡城についての議論にもつながっていく。挨拶はおもてなしにも繋がりますしね」

挨拶からいろいろな物語が始まっていく。それがやがて丸岡城を象徴とした故郷への誇りになればと大濃さんは微笑みます。イメージするのは皇居のような光景。ランニングする人、観光する人、散策する人など、いろんな人が行き交う未来を作っていきたいと穏やかな笑顔で話してくれました。