丸岡城と丸岡の本格手打ちそば。相乗効果で丸岡を盛り上げたい。

丸岡城のおひざ元にある一筆啓上茶屋は、丸岡城を訪れる人たちが立ち寄る休憩スポットです。そのなかの「そば処一筆啓上」を切り盛りしているのが北川智代美さん。15年間、そばを打ちながら丸岡城を見つめ続けてきた北川さんが思う丸岡の町づくりについてお聞きしました。

そば処 一筆啓上 北川智代美さん(70歳)

活動内容について

丸岡産そば粉を使った手打ちそばで
全国に丸岡をPRしたい。

丸岡城と並んで丸岡町を代表するものといえば「丸岡産そば」が有名です。蕎麦どころとして知られる福井県のなかでも丸岡産そば粉は風味が豊かで、名産品としても人気です。

「そば処一筆啓上」では早刈りの丸岡産そば粉を石臼で挽いて手打ちした、本格的な越前手打ちそばが味わえます。観光客はもとより地元の人にも大好評で、その味を支えているのがそば打ち名人の北川さんです。

「国宝になった丸岡城の下で、丸岡産そば粉の手打ち蕎麦を食べてもらうことが目標です」

北川さんが打つそばは、名指しでご指名が入るほど人気があります。それもそのはず、北川さんは全国そば打ち大会の福井県代表に5年連続選ばれた、丸岡が誇るそば打ち名人。声がかかれば、県外で開催される名人戦にも積極的に参加しています。

「そばと一緒に丸岡町を全国にアピールしたいという思いが、年々大きくなっています」

大好きなそば打ちをきっかけに丸岡町のPRにつなげたいという思いが北川さんを動かしています。最近は丸岡町の高校生がそば打ち大会に出場しているほか、小学5年生のお孫さんが福井県の大会で特別賞を受賞したとか。「次世代の名人が育ってきているのよ」と目を細めます。丸岡城と丸岡産そば、どちらも未来へつなぎたい丸岡の誇りです。

活動動機

丸岡城と庭園を一望できる!
女性だけで切り盛りする、そばの名店。

北川さんは一筆啓上茶屋の立ち上げ時から15年間ずっと丸岡城に訪れる人々を見つめてきました。自分のお店を開くこともできる腕前の持ち主ですが、なぜ北川さんは茶屋でそばを打つことを選んだのでしょう?

「自信がなかったというのもあるけれど、『茶屋を守りたい』という気持ちが強かったです」

一筆啓上茶屋のある建物はもともと結婚式などを行える会館でしたが、その後はお年寄りの施設として利用され、やがて地域の核として再建されることとなりました。そこで福井県から佐久川さんという方が派遣され、そば打ち名人を育成することとなります。集められたのは15名の女性たちでした。

ちょうど北川さんが丸岡の産業であるネーム織の会社を退職し孫守りをしている時でした。そば農家なので経験はありましたが、本格的にそば打ちを習うのは初めてのこと。1年間指導を受けると才能を発揮し、2年目には全国大会で優勝するほどの腕前になりました。そして2年目には佐久川さんと一緒にみんなでそば処を始め、経営についても学ぶ機会を得ました。

しかし3年目に佐久川さんが県の仕事に戻ることになり、お店の存続が危ぶまれる事態に。そこで北川さんは女性グループの仲間である故・酒井さんと2人で、なんと当時の丸岡町長に陳情に出向いたそうです。

「私たちに茶屋をやらせてほしい!」

そば処を守りたいという一心で行動した北川さん。その結果、丸岡商工会や丸岡TMOの有志が集まり会社を立ち上げることになり、営業を続けられることになりました。しかし、数ヶ月後には再び閉店の危機に陥ります。会社からは「北川さんが代表となりテナントとして経営しないか」と持ちかけられますが、そば打ちと経営の両立はできないと断りました。

それからほどなく、株式会社イワタグループの岩田良治さんが経営を引き継ぐことに決まり、北川さんは現場を任されることとなります。「北川さん、一心同体で頑張っていこう」という岩田さんの言葉は北川さんの心を大きく動かしました。北川さんの奮起が実り、2ヵ月後には黒字経営となり、その後もさまざまな新メニューを打ち出していきます。やがて市町村合併で体制が変わり土産物店とカフェもできましたが、そば処はそのまま運営が続き、気がつけば15年が経ちました。

そばを打つのも調理するのも接客も全て女性。平均年齢は60歳ぐらい、元気いっぱいのお母さんたちで切り盛りするお店です。本格的な手打ちそばのほか、おふくろの味で丸岡城を訪れる人をもてなしています。北川さんは12年間店長を務めてきましたが、2017年に後進に道を譲り店長を退きます。しかし本社でのデスクワークと両立しながら、今も毎日のように丸岡産そば粉を使って手打ちし、茶屋に訪れるお客さまに美味しいそばを提供しています。

「丸岡城だけでなく庭園もきれいなんですよ。庭の池を眺めながら丸岡城の下でそばを食べてほしい。茶屋の2階にある和室からの眺めは最高です。もっと多くの人に茶屋のことを知ってもらいたいです」

自分たちの力で動き行動する。
町づくりには実行力が必要。

15年前と比べると外国人や団体客も増え、丸岡城が観光地として伸びてきている実感はありますが、丸岡町そのものには寂しさを感じているそうです。

「商店が早く閉まるし、丸岡町外に仕事に行く人も多い。就業人口を増やすことが必要で、そのためには産業が大切です。丸岡はネーム織の産業が盛んでしたが、ピーク時ほどでもない。今後は工場やお店が増えることが重要です」

丸岡に活気を取り戻すためには、他に頼った活性化ではなく自分たちの力でやることが大切だと北川さんは考えています。スローガンを掲げるだけでなく、自分たちで動くことが重要。かつて北川さんが町長に陳情に行った時のように、実際に行動に移す力が必要です。

「男性はしがらみがあって動きにくいのかもしれません。その点では女性の方が自由に動けて実行しやすいのかも。女性の力で風穴を開けることができるかもしれませんね」

長年、女性のパワーで丸岡城を盛り立ててきた北川さんの言葉には説得力があります。丸岡城を中心とした町づくりが大切であり、自分たちにできることはたくさんあるといいます。

「2階のそば道場で、名人戦などの全国大会をやりたいです。全国から人が集まる大会なので、多くの人に丸岡城を知ってもらえます。丸岡城と丸岡のそばが合わさることで、2倍以上の効果が出せるはず!」

市街地から東に見える山のふもとに北川さんの家があります。幼いころ、家の窓から遠くに見えた丸岡城は今でも心に刻まれた原風景。その丸岡城と手打ち蕎麦をつなげることで、丸岡町はもっと元気になる。国宝として蘇った丸岡城を眺めながら本格的な越前そばを食べる日が待ち遠しいですね。